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2025.02.21
INDEX
近年、工務店の集客施策としてSNSの重要性が語られることが増えている。しかし実際の運用となると、写真撮影や投稿作成、コメント対応など、それなりの時間と労力が必要だ。商圏が限られる工務店が、そこまでSNSに力を入れる必要はあるのだろうか。投資対効果は本当に見込めるのだろうか。そんな疑問を持つ経営者・担当者も多いだろう。
SNSへの取り組みを検討する前に理解しておきたいのが、工務店における集客・販売活動の全体像。注文住宅購入までの集客・販売活動は、大きく3つのフェーズに分類できる。各フェーズの目的を明確にすることで、SNSがどのような場面で効果を発揮し、なぜ必要とされているのかが見えてくるはずだ。
フェーズ1 社名認知 〜存在を知ってもらう〜 |
フェーズ2 行動喚起 〜来場を促す〜 |
フェーズ3 意思決定 〜成約に導く〜 |
「家を建てよう」と思い立った人は、まず何をするだろうか。多くの場合、住宅展示場に行ったり、ハウスメーカーのカタログを取り寄せたりして情報収集を始める。しかし、この段階ですでに、「どの会社に依頼するか」という選択肢は、ある程度絞られているものだ。
つまり重要なのは、家づくりを検討し始める前から、会社の存在を知っていること。これが「社名認知施策」の目的だ。特に地域密着型の工務店にとって、商圏内での認知度向上は事業成長の生命線となる。
ただし、大手ハウスメーカーのように、すべての人に認知してもらう必要はない。莫大な広告費をかけて「誰もが知っている会社」を目指すのではなく、自社のターゲット層に絞って効率的なアプローチを行うことが重要だ。同時に、単なる社名の認知だけでなく、自社の世界観やコンセプトも併せて発信していく必要がある。
限られた地域をターゲットとする場合、社名をあしらった建築幕や、国道沿いの野建て看板、電車やバスの交通広告などの物理的な宣伝手法は有効だ。同じくローカルなアプローチとして、地域に特化した住宅関連雑誌やフリーペーパーへの出稿が検討されるケースもあるだろう。ただし、中小工務店にとって継続的な広告展開は負担となるため、費用対効果については慎重に検証したい。
従来型の社名認知施策と同時に実施したいのが、InstagramやYoutubeなどのSNS施策だ。SNSをうまく活用することで、施工事例や現場の様子だけでなく、家づくりに対する想いやスタッフの人柄、会社の雰囲気を含めた総合的な世界観を潜在顧客に伝えることができる。
情報収集を始めた見込み客は、徐々に具体的な行動を起こし始める。資料請求やモデルハウスの見学、相談会への参加など、自分の目で確かめ、直接話を聞こうとするのだ。このフェーズでは、そうした見込み客の行動を後押しする施策が重要となる。
最近は資料請求だけでは商談に結びつきにくい傾向にある。そのため、気軽に参加できるイベントを定期的に開催し、確実な接点を作ることが重要だ。最低でも月1回程度はイベントを実施し、見込み客が行動を起こせる機会を常に用意しておく必要がある。
イベント企画の例
従来のイベント告知はチラシやDMなどが中心だったが、イベントの雰囲気が伝わりにくく、告知から開催までのタイミングも限られてしまう。そこで活用したいのが、SNSによるイベント告知だ。すでに会社の世界観に共感してもらっている層に自然な流れでイベント情報を届けることができ、参加率も高くなる傾向にある。また、イベント当日の様子を後日SNSへ投稿することで、次回以降の参加を促すことも可能だ。
いよいよ最後の決断を迎えようとしている見込み客。この段階では、通常複数の会社を比較検討しており、特徴や価格帯を比べながら慎重に検討を進めていく。数千万円規模の買い物だけに、一つひとつの要素を丁寧に確認するのだ。
ここまで検討が進んだ段階では、その会社で家を建てることの価値はすでに理解されている。このフェーズでむしろ重要なのは、減点される要素を可能な限り取り除いておくことだ。
営業担当者の対応一つで印象が大きく変わることは珍しくない。打ち合わせ時の提案力はもちろん、日々の礼儀作法や約束時間の厳守も重要なポイントだ。
注文住宅は高額な買い物のため、工務店の将来性やアフターメンテナンスの継続性を心配する見込み客は少なくない。ホームページの保証やアフターサービスに関する情報を充実させ、顧客の不安や疑問を解消することも非常に重要だ。
ここまで見てきた通り、社名認知から行動喚起のフェーズにおいて、SNSは非常に大きな役割を果たす。SNSは今や工務店にとって必要不可欠な集客ツールといえるだろう。工務店がSNSに取り組むべき理由としては、大きく3つが挙げられる。
スタジオアンビルト社が2024年7月に実施した調査によると、20・30代の36%が工務店探しにおいて、SNSを「最も役立つ手段」として評価している。特に注目すべきは、SNSを評価する理由として「リアルな口コミが見られる」「デメリットも把握できる」といった”情報のリアルさ”が挙げられている点だ。これは、今後の住宅購入層のメインとなる若い世代が、従来型の広告的な情報ではなく、より生の声を求めていることを示している。
住宅購入の検討は、情報収集から実際の契約まで、長期にわたるプロセスとなる。SNSはこの検討期間中、継続的に情報を届けられる効果的なツールといえるだろう。早い段階から工務店の世界観や施工事例に触れてもらうことで、資料請求や来場の前から関係性を構築。展示場やモデルハウスでは難しかった、早期からのアプローチが可能になるのだ。
従来型の広告手法と比較して、SNSマーケティングは初期投資を抑えることができる。アカウント開設は無料で、投稿に使用する写真や動画も、日々の業務で撮影しているものを活用できる。広告費用も、予算や効果を見ながら柔軟に調整可能だ。また、情報発信の更新も容易で、職人やスタッフによる投稿も可能なため、運用コストを抑えられる。
視覚的な訴求が可能なInstagramは、特に社名認知・行動喚起のフェーズで効果を発揮する。写真・動画を組み合わせて、施工事例やお役立ち情報を発信。24時間で消えるストーリーズでは、工務店の日常やスタッフの素顔を気軽に共有できる。イベント告知では、フィード投稿で詳細情報を伝えつつ、ストーリーで準備風景や直前情報を発信するなど、複数の機能を組み合わせることも可能だ。広告機能を活用すれば、年齢や地域を絞った効率的なアプローチもできる。
長時間の動画投稿が強みとなるYouTubeは、主に社名認知フェーズで活用したい。建物の内覧動画や施工過程の記録はもちろん、家づくりのポイント解説や、入居後の暮らしぶりなど、幅広いコンテンツの発信が可能だ。チャンネル登録者の獲得にはある程度の時間がかかるが、一度公開した動画は資産として長期的に機能するだろう。
インテリアや住まいの参考写真が集まるPinterestは、デザイン性の高い工務店と相性が良い。将来の家づくりに向けてイメージを集めている潜在顧客に対し、施工事例写真はもちろん、収納アイデアやインテリアコーディネートの実例など、住まいづくりのヒントとなる情報を発信。投稿にウェブサイトのリンクが設定でき、ホームページへの誘導もスムーズだ。
日常的なコミュニケーションツールとして定着しているLINEは、主に行動喚起フェーズ以降での活用が効果的だ。公式アカウントの友だち登録者に対して、イベント情報をダイレクトに届け、個別の相談にも対応できる。見学会の予約受付などの活用はもちろん、施工中の現場写真の共有など、顧客との関係づくりにも役立つプラットフォームとなる。
SNSマーケティングは、もはや工務店経営において選択肢ではなく必須の施策となっている。各フェーズに応じた適切な情報発信と、オフラインとオンラインを組み合わせた統合的なアプローチにより、効果的な集客と成約率の向上が期待できる。
ただし、SNSマーケティングは即効性のある施策ではない。長期的な視点を持って継続的に取り組むことで、はじめて本来の効果を発揮する。今後ますます競争が激化する住宅市場において、SNSを活用した戦略的なマーケティングは、工務店の持続的な成長に欠かせない要素となるだろう。