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2025.06.20
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2025年4月、住宅業界を大きく変える省エネ基準適合の完全義務化がついに始まった。これまで「努力義務」とされていた省エネ基準への適合が、すべての新築住宅において「完全義務化」へと移行したのである。この変化は、工務店の日常業務に既に大きな影響を与え始めている。設計、確認申請、営業トーク、施工まで、あらゆる工程に変革が求められているのだ。
最も重要なのは、この義務化が単なる“おすすめ”ではなく、クリアできなければ確認申請が通らず、着工できなくなるという点である。つまり、これは「知っていると得をする」レベルの情報ではなく、「知らないと工事ができない」レベルの必須知識となる。
以前の記事では省エネ基準適合義務化の全体像についてお伝えしたが、今回はより実務的な視点から、工務店が日々の業務でどのように対応すべきかを具体的に解説していこう。既に始まっている義務化の波に、どう対処すればよいのかを明確にすることで、この変革期を乗り切るための道筋を示したい。
まず、2025年4月から何が変わったのか、その全体像を把握しよう。
項目 | 旧ルール | 2025年4月以降 |
省エネ基準 | 努力義務 | 適合義務(※一部を除く) |
対象建物 | 特定建築物のみ | すべての新築住宅・非住宅 |
説明義務 | 一部地域 | 全国で義務化 |
断熱等性能 | 説明自由 | 性能値開示が必要 |
提出資料 | 任意添付 | 一次エネ計算・UA値添付が義務 |
これまでは省エネ基準への適合は「努力義務」とされ、主に300㎡以上の中・大規模建築物のみが義務化の対象だった。しかし、2025年4月からは原則としてすべての新築住宅・非住宅に対し、省エネ基準への適合が義務化された。
省エネ基準では、「一次エネルギー消費量基準」と「外皮基準」の2つを満たす必要がある。外皮基準では、UA値(外皮平均熱貫流率)とηAC値(平均日射熱取得率)を計算し、地域ごとに定められた基準値以下となることが必要だ。
建築確認申請時には省エネ基準への適合性審査が実施され、基準を満たさなければ着工・使用開始が遅れる恐れも。これは工期や信頼に致命傷を与える可能性のある重大事項だ。
では、工務店は具体的に何をすべきか。重要となるのが以下の4項目だ。
項目 | 内容 | 対応策 |
1. 設計対応 | 一次エネ計算・UA値 | ソフト導入 or 外注先確保 |
2. 営業ツール | 性能説明資料の整備 | BELS取得、シミュレーション表 |
3. 確認申請書類 | 新書式に対応 | 建築士の書類スキルアップ |
4. 社内教育 | 営業・現場の意識統一 | 簡易研修マニュアルの作成 |
設計段階では、一次エネルギー消費量やUA値の計算が必要となる。これらは専門知識を要する計算であり、対応には主に次の2つの選択肢がある。
省エネ計算用のソフトウェアを導入し、社内で計算業務を行う方法だ。代表的な有料ソフトとして、「Energy ZOO(エナジーズー)」がある。このソフトは外皮性能計算から光熱費計算、室温のシミュレーションまでできる木造住宅用省エネ計算ソフトで、各種申請やプレゼンテーションにも活用できる。国が開発協力を行っている無料ツールを活用する方法もあるが、操作の複雑さや計算精度の面で、有料ソフトに比べると劣る場合がある。また、BELS評価を取得する場合は、「ホームズ君」「ARCHITREND(アーキトレンド)」などの専用CADソフトでの計算が必要となるため、これらのソフト導入も検討すべき選択肢となるだろう。
計算業務を専門会社に外注する方法も選択肢の一つだ。省エネ計算の代行サービスは多くの企業が提供しており、費用は建物の規模や複雑さによって変動する。外注のメリットは、専門知識がなくても確実に基準適合の計算を行えることと、本業に集中できることである。
外注先を選ぶ際のポイントは、対応の速さ、質問への回答力、費用の透明性などだ。既に多くの工務店が外注先を確保し始めているが、良質なパートナーを見つけることが今後の業務効率化のカギとなるだろう。
省エネ性能は今後、住宅の重要な価値基準として注目を集めることになる。そのため、営業段階でお客様に分かりやすく説明するためのツールが必要だ。
営業段階で活用するツールとしては、「Energy ZOO(エナジーズー)」の活用が効果的だ。間取りや仕様が確定していないラフな段階でも計算が容易で、光熱費削減額やCO2削減量など、具体的なメリットを数値で示すことで、お客様の理解を促進する強力な営業ツールとなるだろう。実際に営業からプランまでを業務としている会社の中には、プランに「EnergyZOO」の結果も添付している例がある。
光熱費削減額、CO2削減量、健康への効果など、省エネ性能の高い住宅がもたらす具体的なメリットを数値で示すシミュレーション表も有効な営業ツールだ。こうした資料は省エネ計算ソフトから出力できる場合も多く、お客様の理解を促進する強力な武器となる。
先進的な工務店はこうした営業ツールを活用して差別化を図り始めている。この流れに乗り遅れないよう、早急に準備を整えることが重要だ。
2025年4月以降、確認申請には省エネ性能に関する新たな書類の添付が必須(※一部を除く)となった。これらの書類作成には専門知識が必要で、不備があれば確認申請が通らず、工事の遅延につながる恐れがある。
建築士は省エネ基準や計算方法について知識をアップデートする必要がある。国土交通省や業界団体が開催するセミナーへの参加や、関連書籍での自己学習が有効だ。また、実際の申請例を社内で共有し、ノウハウを蓄積していくことも重要である。
申請書類の不備を防ぐため、社内でチェックリストを作成することも有効だ。省エネ性能に関する必要書類、計算書の整合性、図面との整合などを確認するためのチェックポイントを整理しておこう。
省エネ基準適合義務化への対応は、設計部門だけの問題ではない。営業担当者や現場監督も含めた全社的な取り組みが必要だ。
省エネ基準の概要、自社の対応方針、お客様への説明ポイントなどについて、定期的な社内研修を実施しよう。特に営業担当者は、省エネ性能の価値をしっかりと理解し、お客様に説明できるようになることが重要だ。
すべての従業員が省エネ基準適合義務化について理解できるよう、簡易なマニュアルを作成し、共有しよう。マニュアルには、法改正の概要、自社の対応方針、よくある質問とその回答などを盛り込むと効果的だ。
義務化が始まった今、社内の情報共有や意識統一は喫緊の課題となっている。できるだけ早く社内体制を整え、全員が同じ方向を向いて対応できる環境を作ることが求められる。
最後に、省エネ基準適合義務化に対応するためのツールや外注先について、具体的にまとめておこう。
無料ツール:住宅・建築SDGs推進センター 計算支援プログラムなど
メリット:導入コストがかからない
デメリット:操作が複雑、サポートが限定的
有料ソフト:Energy ZOO(エナジーズー)など
メリット:使いやすいUI、サポート体制が充実、プレゼン資料の作成機能
デメリット:導入費用が必要
省エネ計算の外注先としては、専門の計算代行業者や設計事務所が選択肢となる。費用は対象建物の規模や作業内容にもよるが、戸建て住宅で3~10万円程度が相場だ。
業者選定のポイント
・迅速な対応が可能か
・審査機関との質疑応答まで対応してくれるか
・料金体系が明確か
・実績や評判はどうか
2025年4月の省エネ基準適合義務化が始まり、住宅業界は新たな時代に突入した。この変化は多くの工務店にとって対応すべき課題だが、同時に差別化の機会でもある。
既に義務化への対応に苦慮している工務店も少なくないだろう。しかし、適切なツールの選定や外注先の確保、社内体制の整備などを進めることで、この変革を乗り切ることができる。さらに、省エネ性能の価値をお客様に適切に伝える提案力を磨くことで、競争力のある事業モデルを確立できるはずだ。