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2024.12.27
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住宅業界は今、重大な岐路に立たされている。新築住宅市場の縮小、リフォーム需要の伸び悩み、そして不動産市場の構造的変化。従来の事業モデルに固執すれば、衰退は避けられぬ道となろう。しかし、この危機を機会と捉え、新たな価値創造に挑戦する企業には、大きな成長の可能性が開かれているはずだ。
この激変する市場環境下において、住宅業界企業が取るべき戦略とは如何なるものか。具体的なデータを踏まえつつ、考察していこう。
新設住宅着工戸数は、2023年度の約80万戸から、2030年度には約77万戸、2040年度には約58万戸へと減少すると予測されている。この数値が示すのは、わずか17年の間に市場が約28%も縮小するという厳しい現実だ。この急激な需要減少への対応が、各社の生き残りを左右する重要課題となることは疑いの余地がない。
リフォーム市場は、2022年の約8.1兆円から、2040年には8.9兆円に達すると予測されている。新築着工数や人口が減少する中で、成長が期待されるのはこのリフォーム市場だ。しかし、その伸びは緩やかであり、現状のままでは大きな拡大は難しく、ほぼ横ばいに推移していくことが予想される。
不動産市場において着目したいのが、住宅に対する価値観の変化だ。国土交通省の調査によれば、住宅について「土地・建物の両方とも所有したい」と考える人の割合は、ここ10年で79.8%から65.5%へと大幅に低下。特に20代・30代の若い世代では、この傾向がより顕著だ。依然として持ち家派が多数を占めているものの、持ち家にこだわらない層が着実に増加しつつある。
かつて「マイホーム」は多くの日本人にとって人生最大の目標であり、“すごろく”の上がりを意味した。しかし今、その価値観は大きく変容しつつある。住宅を「所有」することよりも、いかに「利用」するかに重きをおく傾向が顕著になってきているのだ。この変化の背景には、社会構造の変化や個人の価値観の多様化がある。
まず挙げられるのは、雇用環境の劇的な変化だ。かつての「終身雇用」という安定した雇用モデルは崩れ、転職や雇用形態は多様化。将来の収入や居住地に対する不確実性が高まる中、30年もの長期ローンを組んで「終の棲家」を購入することへの躊躇が生まれている。柔軟な転居や資金計画ができる賃貸住宅への需要が高まっているのは、こうした背景があるためだ。
次に注目すべきは、都市部への人口集中である。特に若年層の都市部志向が高まり、地方の実家を継ぐ意識は薄れている。都市部では地価が高騰し、持ち家取得のハードルが上がる一方で、多様な賃貸物件が選択肢として存在する。この状況下で、「所有」にこだわらない「利用」重視の住まい方が広がりつつあるのだ。
さらに、個人のライフスタイルの多様化も大きな要因だ。晩婚化・非婚化の進行、単身世帯の増加、働き方の多様化などにより、「標準的な家族像」が崩れつつある。それぞれのライフステージに合わせて柔軟に住まいを選択する傾向が強まり、賃貸住宅はもちろんシェアハウスやサブスクリプション型住宅サービスなど、新たな「利用」の形態も注目を集めている。
これまで見てきたように、住宅に対する価値観は「所有」から「利用」へと大きくシフトしている。しかし、この変化は「所有」そのものの否定ではなく、むしろ「所有」のあり方自体を進化させているとも言えるだろう。今日の住宅所有は、単なる居住目的を超え、資産運用の視点を取り入れた戦略的な選択へと変容しているのだ。
人生100年時代の到来、公的年金制度への不安、そしてコロナ禍がもたらした経済的不確実性。これらの社会変化は、資産形成の重要性を際立たせ、住宅所有の意味を再定義している。政府も、iDeCoやNISAなどの自助努力型の制度を通じて個人の資産形成を奨励しており、こうした流れは今後も加速していくだろう。
この文脈において、住宅所有は新たな意味を帯びている。例えば、将来の売却や賃貸を視野に入れた戦略的な不動産取得が増えている。立地や将来性を重視し、資産価値の維持・向上が期待できる物件を選ぶ。あるいは、リノベーションを施して資産価値を高めながら住み、将来的には賃貸に出すことで収益を得る。このように、「住みながら投資する」という新しい住宅活用法が注目を集めているのだ。
また、自宅とは別に投資用不動産を所有する個人投資家も増加。賃貸用のアパートやマンションを所有して家賃収入を得たり、民泊サービスを活用して収益化したりと、不動産を活用した多様な投資スタイルが広がりつつある。
住宅に対する価値観が大きく変化し、新築住宅市場の縮小やリフォーム需要の伸び悩みが続く中、工務店や不動産業界は従来のビジネスモデルの見直しを迫られている。この変革期において、新たな可能性として浮上してきたのが「戸建賃貸ビジネス」だ。
戸建賃貸ビジネスは、地主や資産家層に対して戸建賃貸のオーナーになることを提案するものだ。これにより、工務店や不動産業者は長期的かつ安定した建築需要を創出できる。従来の持ち家需要に依存するビジネスモデルから脱却し、投資用不動産としての戸建住宅建築という新たな市場を開拓する道が開かれるのだ。
このビジネスモデルの真価は、潜在的な顧客層の広さにある。資産運用への関心は年齢や職業を問わず高まっており、誰もが戸建賃貸のオーナーという潜在的な顧客となり得る。「家を売る」という従来の発想から、「資産運用の手段を提供する」という新たな視点で顧客にアプローチすることで、案件受注の可能性は飛躍的に拡大するだろう。
戸建賃貸市場では、入居者のニーズが急速に高まっている。コロナ禍を経て、質の高い住環境への志向が高まり、庭付きの一戸建てやテレワークスペースの確保が可能な住居への需要が増加しているのだ。しかし、現状ではこの需要に供給が追いついておらず、市場には大きな成長の余地がある。この需給ギャップは、戸建賃貸ビジネスに参入する絶好の機会を提供している。
住宅業界が直面する需要の限界を乗り越えるには、新たなマーケットの開拓と革新的なビジネスモデルの創造が不可欠だ。戸建賃貸ビジネスは、その一例に過ぎない。重要なのは、変化する社会ニーズを敏感に捉え、それに応える新たなサービスや商品を生み出すことだ。
「所有」から「利用」へのシフト、資産運用としての住宅、多様化するライフスタイル。これらの変化は、従来の「住まい」の概念を根本から覆しつつある。この激動の時代に求められるのは、こうした変化を恐れるのではなく、むしろ積極的に受け入れ、新たな機会として捉える姿勢だ。
柔軟な発想と果敢な挑戦。それこそが、縮小する市場で生き残り、さらなる成長を遂げるための鍵となるはずだ。