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2024.12.13
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2050年カーボンニュートラルの実現に向け、住宅の断熱性能が新たな焦点となっている。2025年には省エネ基準適合が義務化され、すべての新築住宅において一定以上の断熱性能の確保が必須となる。これは、地球温暖化対策における住宅分野の重要施策だ。同時に、エネルギー価格高騰を背景とした光熱費削減ニーズの高まりや、健康意識の向上とも相まって、断熱性能は住宅の重要な価値基準として注目を集めている。
工務店にとって、この変化は対応を迫られる課題であるのと同時に、新たな成長機会でもある。なぜなら、高い断熱性能は、環境負荷の軽減だけでなく、快適性や健康、経済性といった具体的な価値を消費者にもたらすからだ。これらの価値をどのように提案し、ビジネスとして成立させていくか。各工務店の今後の展開が問われている。
2024年6月に公布された改正建築物省エネ法により、2025年4月からすべての新築住宅・非住宅において省エネ基準への適合が義務付けられることとなった。中規模以上の非住宅では先行して義務化がスタートしていたが、小規模住宅にも拡大するものだ。増改築の場合は、その対象となる部分のみ基準適合が求められる。
省エネ基準は、外皮基準と一次エネルギー消費量基準からなり、義務化対象となる建築物には現行省エネ基準が適用される。具体的には、断熱等性能等級4以上・一次エネルギー消費量基準4以上をクリアすることが必要だ。
住宅の断熱性能が注目を集める背景には、次のような社会的要因がある。
カーボンニュートラルへの取り組みが世界的に進められる中、日本でも2050年カーボンニュートラル、2030年度までに温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)という具体的な目標が掲げられている。エネルギー消費量の約3割を占める建築分野における取り組みは急務となっており、今回の省エネ基準適合義務化が実施されるのだ。さらに、遅くとも2030年までには省エネ基準をZEH・ZEB基準の水準に引き上げ、その適合を義務化するという道筋も示されている。
世界的なエネルギー価格の高騰を背景に、住宅の省エネ性能は家計を左右する重要な要素として認識されつつある。高性能な断熱材や設備機器の導入により、長期的な視点での経済的メリットを求める声が増えている。イニシャルコストの増加を上回るランニングコストの削減効果が、注目を集めているのだ。
健康志向の高まりも、断熱性能重視の大きな要因となっている。特に注目されているのが、ヒートショック対策だ。冬場の室内外の温度差による健康リスクを軽減する上で、住宅の断熱性能は極めて重要な役割を果たす。家庭内での事故を防ぎ、健康で快適な暮らしを実現するため、断熱性能の重要性は今後ますます高まっていくだろう。
2025年度の省エネ基準適合義務化は、新築住宅市場に大きな影響を及ぼすことが予想される。
住宅の高断熱化に伴う建物の重量化は、業界に大きな影響を及ぼす。断熱材の充填や高性能サッシの採用により建物重量が増加するため、2025年4月には小規模木造住宅の構造基準が見直される方針だ。
具体的には、ZEH水準等以外の住宅も含む「2階建て以下、高さ16m以下、延べ面積300㎡以下」のすべての木造住宅において、壁量基準や柱の小径基準が変更される。特に小規模工務店にとっては、構造計算への対応力強化や、新たな工法の習得など、技術面での課題が増えることになるだろう。
また、省エネ性能が住宅選びの新たな基準となることで、高性能住宅をめぐる競争は一層激化するだろう。しかし、2025年の省エネ基準適合義務化は、あくまでもスタートラインにすぎない。今後も省エネ基準は段階的に引き上げられる予定で、2030年にはZEH水準が最低ランクとなる見込みだ。
将来を見据えると、単に現行の省エネ基準をクリアするだけの対応では不十分だと言えるだろう。工務店には、断熱性能や気密性能の向上、高効率設備の導入など、より高度な技術力が要求される。また、それらの性能を適切に評価・表示し、顧客にわかりやすく伝える提案力も不可欠だ。今のうちから、より高性能な住宅の開発・提供を目指し、将来の基準強化にも対応できる体制を整えておく必要があるだろう。
これらの変化は、住宅業界に大きな転換点をもたらすことになる。構造計算や省エネ性能への対応など、技術力の向上や体制の整備が追いつかない事業者は、市場での競争力を失うリスクに直面する。
特に小規模工務店にとっては、設計・施工両面での技術力向上、人材育成、品質管理体制の整備など、多くの課題への対応が求められる。また、高性能化に伴うコストアップを適切に価格に反映し、その価値を顧客に納得してもらえる提案力も問われる。新たな基準や技術への対応が遅れれば、市場からの撤退を迫られる事業者も出てくるだろう。住宅業界は、まさに優勝劣敗の時代を迎えようとしているのだ。
ではこのような市場環境の変化に対し、工務店の対応としてはどのような選択肢が考えられるだろうか。
一つは、より高度な技術力を獲得し、高性能住宅市場での優位性を確立する道だ。構造計算への対応力を強化し、省エネ性能の高い住宅を提供することで、新たな市場を開拓。ZEHやLCCM住宅など、省エネ基準を上回る性能を持つ住宅の提供を目指す。
これらの高性能住宅は、光熱費の大幅削減や快適な室内環境の実現、さらには将来的な資産価値の維持など、多くのメリットを提供できる。人材育成や新工法の習得など、体制整備には一定の投資が必要となるが、その価値を適切に訴求できれば、十分な収益性を確保することができるはずだ。
もう一つは、規格住宅の活用による効率的な展開だ。あらかじめ構造計算を済ませ、省エネ性能を高めた規格住宅をラインナップに加えることで、個別の計算負担を軽減しつつ、確実な品質確保が可能となる。規格住宅は、標準化された施工プロセスにより、品質のバラツキを抑制できるのもメリットだ。
さらに、多数の実績データの蓄積により、光熱費削減効果や快適性について、より具体的で説得力のある提案が可能となる。規格住宅でありながら、外観や内装のカスタマイズ性を高めることで、画一的というイメージを払拭し、付加価値の高い商品として展開することも可能だ。
省エネ基準適合義務化は、工務店に大きな変革を迫ることになる。しかし、この変化は単なる規制強化ではなく、新たな成長機会としても捉えることができる。高性能住宅への特化や規格住宅の活用など、それぞれの工務店が持つ強みを活かした展開が可能だ。
重要なのは、時代の変化を的確に読み取り、自社にとって最適な戦略を選択すること。その価値を顧客に分かりやすく伝える提案力を磨きながら、持続可能な事業モデルを構築できるか。まさに、工務店の真価が問われる時代が始まろうとしている。